2011年12月9日金曜日

ユーロ圏財政とネオナチに苦悩する盟主ドイツ

【毎日】2011年11月17日

外国人や移民を敵視するドイツの極右ネオナチの男女3人組が00~07年に、トルコ系移民ら計10人を次々に殺害していた疑いが強まり、ドイツ社会に衝撃が走っている。

90年の東西ドイツ統一以来、ネオナチによる移民襲撃は散発的に起きているが、これほど大規模な連続殺人が明るみに出たのは初めて。メルケル首相は「ドイツの恥だ」と強く非難した。

 独メディアによると、射殺されたのは軽食スタンド経営などのトルコ系男性8人、ギリシャ系男性1人と、ドイツ人女性警察官1人。現場は北部ハンブルクや南部ミュンヘンなどドイツ全土の7都市にわたり、これまでは「トルコ系マフィアの抗争」との見方が有力とされていた。

 だが今月4日、銀行強盗の疑いで警察に追われていた38歳と34歳の男2人が中部アイゼナハで自殺し、この2人と同居していた36歳の女が警察に出頭したことで事件が急展開。3人が住んでいた東部ツウィッカウの民家の家宅捜索で、被害者の遺体を撮影したDVDや、射殺に使用されたとみられる銃が見つかり、一連の事件は3人の犯行だった可能性が一気に高まった。

 3人は「国家社会主義地下組織」を名乗るネオナチで、捜査当局は90年代から爆発物所持容疑で行方を追っていた。だが長年身柄を確保できず、その間に捜査対象をマフィアなどに集中していた当局への批判の声も上がっている。


【産経】2011.11.26 18:00
「極右テロ」を13年間野放し? 外国人連続射殺事件でドイツ社会に衝撃

 2000~07年にドイツ各地でトルコ系住民ら10人が次々と殺害された事件をめぐり、同国内で衝撃が広がっている。これまで未解決だった事件は、今月に入り男女3人組のネオナチグループの「テロ」だった疑いが強まる一方、極右の活動などを監視すべき情報機関が13年間もグループの動きを見過ごし、結果的に野放し状態で犯行を許した格好となったからだ。

ドイツはナチスの過去の経験から排外主義的な動きには断固として対処してきただけに、大きな議論となっている。(宮下日出男)

 一連の事件では2000年9月~06年4月、南部ニュルンベルクや北部ハンブルクなどでトルコ料理店など自営業者のトルコ系住民8人とギリシャ系住民1人が射殺された。独メディアによると、当時は「トルコ系マフィアの抗争」との見方が有力で、捜査当局は関係者1万人以上を調べが解明できなかった。07年には南西部の都市で女性警官1人が殺害された。

 事件が急展開したきっかけは、今月4日、中部アイゼナハでグループの男2人の死体がキャンピングカーの中から見つかったことだった。

自殺だったが、車内から警官殺害の際に奪われた警官の銃が見つかった。6日にはグループが拠点としていた東部ツウィッカウの住宅で火災が発生。グループの女が放火したとされ、焼け跡からはトルコ系住民らへの襲撃で使われた銃やグループによる犯行を示すDVDが見つかった。

自殺の男はそれぞれ34歳の「ウウェ・ベーンハルト」、38歳の「ウウェ・ムントロス」とされている。捜査当局は住宅の火災後に出頭してきた女のベアテ・チェーペ容疑者(36)を逮捕。チェーペ容疑者は黙秘しているが、DVDでグループはナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)を想起させる「国家社会主義地下組織」を名乗り、襲撃事件の被害者の遺体を撮影していた。2004年に西部ケルンのトルコ人が多く住む地区で22人が負傷した爆破事件の犯行の疑いも浮上した。

 犯行の背後にさらなる極右グループとの関係があるのか、3人を中心としたグループに限られるのか、これまでのところ不明だが、捜査当局は協力者2人をすでに逮捕した。

 「ドイツの恥だ」。メルケル首相は犯行を強く批判し、「われわれは常にいかなる形の過激主義に対しても警戒しなければならない」と訴えた。事件の真相解明に向け、独メディアも連日、捜査状況などを大々的に報道している。

 だが、同時に長期間にわたりネオナチグループが見つかることなく、犯行を繰り返すことができた問題も大きな反響を呼んでいる。しかも、3人組は1998年にすでに爆弾製造に関わったとして捜査対象になっていながら、その後の行方が把握されてもいなかった。

 事件を受け、政府は犠牲者遺族への補償を検討する一方、極右が関与した可能性のある事件の洗い直しに乗り出した。連邦・州レベルの捜査・情報機関の連携強化のため、米中枢同時テロ後につくられたイスラム過激派の登録データベースのようなシステムを極右に対しても創設することも検討されている。

ただ、特に今回、矛先が向けられているのは、左右両派の過激派を監視すべき州レベルの憲法擁護局。チェーペ容疑者が潜伏中、憲法擁護局の協力者と連絡を取っていたとの報道のほか、襲撃の現場に憲法擁護局職員が居合わせていたとの不可解な情報までが浮上している。

 このため、政治家からは「極右に関する憲法擁護局の行動は根本的に調査されなければならい」といった声も上がっている。


大前研一の「産業突然死」時代の人生論

ユーロ圏財政とネオナチに苦悩する盟主ドイツ
2011年12月05日

 ドイツのメルケル首相が11月20日、「欧州の政治統合を深めるための条約改正」を提唱し、波紋を広げている。これは欧州連合(EU)27カ国のうちマーストリヒト条約加盟17カ国(通貨ユーロ加盟国=ユーロゾーンと呼ばれることが多い)において財政規律を守らない加盟国を欧州司法裁判所に提訴するなど厳しい措置を課すものだ。

ユーロ圏を独力で引っ張るドイツの先行き
 メルケル首相はこれまでに数多くの難題に取り組み、賞賛すべき成果も上げてきた。だから、私は彼女を優秀な政治家だと評価しているが、しかし一方で、メルケル氏は必ずしも経済に精通しているわけではないと考えている。とくにマルチプルを駆使する鞘取り業者が跋扈する金融市場に関してはあまり馴染がないと思われる。

 いうまでもなく、現在のユーロゾーンでは「破綻寸前の加盟国をどう建て直すか」という国家債務危機問題が最大の課題となっているわけだが、今後の成り行きによってはメルケル首相のリーダーシップに疑問符が付くこともあり得る。

 今までは独仏首脳が力を合わせて事態に対処してきた(あるいはそう演出してきた)わけだが、ここに来てフランスの財政が必ずしも盤石ではないことが露呈してきたので、来年改選を迎えるサルコジ大統領に対する信任が急速に薄れている感が否めない。

 ドイツ連邦銀行が11月23日に行った新規国債の入札では、札割れ(政府からのオファー額に対して金融機関から申し込まれた金額が達しないこと)が発生した。ドイツ国債といえば「堅実」の代名詞的な存在であって、札割れを起こすのは異例のことだ。これがメルケル首相の、いやユーロゾーンを独力で引っ張るドイツの苦難の道の先行きを暗示しているかのようにも思える。

条約改正で多くの国が混乱する可能性もある
 メルケル首相が条約改正を提唱した話に戻すと、彼女の主張はこう要約することができる。ユーロゾーンには、たとえばマーストリヒト条約で定めた「国家財政赤字はGDPの3%以内」「累積債務はGDPの60%以内」という約束を守れない国がたくさんある。これまでは「赤信号、みんなで渡ればなんとやら」で罰則の適用も曖昧にされてきたが、今後はそういう国に対して、何らかのペナルティーを課そうではないか、ということだ。

 ペナルティーには、法的手段に訴えてでも借金を返済させるとか、あるいはいっそユーロゾーンから離脱させるとかいった一種強権的な措置も視野に入っている。だから、もし本当にメルケル首相の思惑通りにことが進めば、事実上デフォルトしたギリシャをはじめとするPIIGS(ポルトガル・アイルランド・イタリア・ギリシャ・スペイン)諸国はもちろん、無政府状態が続いていたベルギーなども含めて多くの国が大混乱をきたすことにもなりかねない。

 通貨同盟ユーロにまだ加盟していないEU諸国でもハンガリーのように国際通貨基金(IMF)の救済を求めたり、すでに救済を受けているバルト三国などもいずれはユーロに入りたい、という希望を持っているので、影響はかなり広範囲にわたる。

 逆にユーロに入っていないEUの大国イギリスはここに来て、財政や金融政策の自由度が評価されて通貨ポンドも英国債の金利も安定した強さを見せている。国論を二分してきたイギリスのユーロ加盟問題は当分、先送りとなるだろう。

国債の発行に関しては規律が緩かった
  もちろんそうしたことが理解できぬメルケル首相ではないから、彼女は同時に「ユーロ圏内で財政を一元化しよう」と主張しているのである。

 これには少し説明が必要だろう。ユーロゾーンは通貨同盟であり、加盟国の経済・財政の一元化はしていない。特に通貨の発行に関しては勝手なことをさせないが、国債の発行に関しては規律が緩かった。

 したがって実質的には各国がそれぞれ国内経済の舵取りをしている。その結果が今日のユーロ危機の原因のひとつになったのだから、今後は通貨のみならず経済・財政も一元化し、ユーロゾーンの統合をより強固なものにする、というわけだ。

 その意図するところは理解できなくもない。確かにユーロゾーン内での統一基準をもって各国政府の「放漫経営」を戒めれば債務危機などのリスクをかなり減らすことはできるだろう。

 だが、私は「ユーロゾーンが経済・財政を一元化するのは至難の業だ」と考えている。なぜなら、それは各国が個別に予算案を作るのを禁止するということであり、内政干渉にも等しいからだ。

独自通貨の発行を一部認め、加盟国の再構築を行うべき
 私はむしろ、ユーロ加盟国それぞれに自国の通貨発行を一部認めていくべきだと考える。ユーロ17カ国では現在、ユーロの流通は当然ながら100%になっている。これを段階的に90%、80%と2割程度まで減らしていき、その代わりにそれぞれの国に独自通貨を発行させる。そして、独自通貨の加重平均はユーロと連動させた、いわゆるバスケット通貨(ユーロ導入前のECUと同じ原理)とする。

 こうすれば当然、独自通貨を発行し過ぎた国の貨幣価値は下落する。しかし、それはそれで構わない。こぼれ落ちる国も出てこようが、そういう国にはユーロから離脱していただく。

 すると最終的には「本当に強い」7~8カ国が残るだろう。これらの国々でユーロ加盟国を再構築してから、落ちこぼれた国にも再出発できる機会を与えるのだ。ユーロ加盟諸国の中には財政規律の問題を安易に考えていたところがあったのは事実だ。

 こうした根本的なプロセスを踏まなければ経済・財政一元化の道筋も見えてこない。逆にいえば、こういう発想を持たないまま、やれギリシャの救済だ、それルール違反を犯した国にはペナルティーだとしているのは、まったく場当たり的な対策である。それではユーロの再建はおぼつかない。

 マーストリヒト条約ではユーロ加盟の条件を決めたが、離脱の方法に関しては決めていなかった。そういう不備がここに来て一斉に露呈した。しかし共通通貨ユーロという壮大な実験を失敗に終わらせてはいけない。

「次はフランス」のサルコジ大統領に打つ手はあるか
 ここで、欧州主要国の10年物国債の利回りの変化を見ておこう。各国とも3本の棒グラフがあるが、これらは上から2010年11月末、2011年11月18日、同25日の利率を示している。


[画像のクリックで拡大表示]
 ほとんどの国で利回りが上昇していることがわかる。特にイタリアの上昇ぶりは激しく、2010年から1年足らずで2%も上がり、さらにそのわずか1週間後には「危険水域」とされる7%を突破してしまった。イタリアとともにPIIGSの一角を成すスペインも7%に近い水準まで利回りが上昇している。

 国債発行が多く、昨年6月の総選挙以降、無政府状態が続いているベルギーもかなりまずい状況まで来ている。国債の格付けが落ち込んで危機感を持った6つの政党が11月下旬になってようやく連合政権を作ることに合意している。

 オーストリアとフランスは数字だけを見れば「まずまず」といったところだが、利回りが上昇している点ではイタリアやスペインと変わりはない。つまり市場は、「債務危機の影響がスペインやポルトガルにまで及べば、次に危なくなるのはオーストリアとフランスだ」と見なしているわけだ。

 ドイツとともにユーロの守護神の側に回っているかに見えたフランスのサルコジ大統領もそろそろ腹をくくる必要があるだろう。といっても来年の大統領選挙を前に極端な緊縮財政は取りにくく、市場からの制裁を気にしながら緊縮財政を小出しにしていくしか打つ手はないだろう。

 フィンランドとイギリスは現状維持だ。イギリスの場合はユーロには加盟していないので、火の粉をかぶらずに済んだ格好である。そしてドイツはというと、各国に比べて低い利回りを維持しているものの、今年になって下がった利回りが最近は上昇に転じている。

ドイツに衝撃を与えたネオナチによる殺害事件
 ドイツにとって、ユーロ圏の財政問題と並んで、もう一つシリアスな問題が浮上している。極右ネオナチによる殺害事件だ。

 トルコ系移民ら10人を殺害した容疑で、ネオナチの男女3人が11月半ばに逮捕された。この事件がドイツ国民にとってとりわけ衝撃的だったのは、殺人は過去10年間で行われており、それがこれまで明るみに出なかったことである。米タイム誌11月28日号は、「暴力の歴史」という記事の中で「過去10年間で少なくとも10人が殺害され、そのうち9人がイスラム教のトルコ人」と報じている。

 ドイツにとって、第二次世界大戦中のナチスの蛮行は歴史に深く刻まれた汚点である。戦後ドイツは巨額の賠償を行い、ナチス高官には時効を認めず、さらに「ナチス的なるもの」を徹底的に排除してきた。営々と築いてきた近隣諸国と信頼関係により、ユーロの屋台骨となった今日のドイツの姿がある。

 そこへ今回のネオナチによる殺害事件が明るみに出た。ネオナチを非合法化しようという動きは今までにも何回かあったが、憲法上それができないで今日に至っている。今回の事件で「市民の間に深く溶け込んだテロリスト」という判断が出てきているが、ネオナチというのは「個人の信じる教条」と解釈される限り非合法化は難しい。

 「ドイツ警察は犯人を10年間も逮捕できなかったのは何ごとだ」と国内外で批判されている。「本当にユーロゾーンの政治統合を進める気があるのか」と罵られても甘受せざるを得ないだろう。

独仏ハネムーンに亀裂の兆しか
 この問題は、ユーロゾーンの財政強化を狙うメルケル首相の方針に少なからぬ影響を与えている。フランスの左派政党の要人がユーロ債の買い支えを拒否し、ユーロの規律と罰則を主張するドイツのメルケル首相を「ビスマルク」にたとえたことで、フランスにもこの論争が飛び火している。

 多くのフランス人の心情としては、厳しく迫るドイツは「勘弁してもらいたい」ということから「鉄の宰相」と言われたビスマルクを持ち出したくもなる。しかし、ここでドイツの反発を食らえばフランスがコケた時にドイツは救ってくれないだろう、という危機感もある。左派の多くの人がこのビスマルク発言を慌てて打ち消しているのを見ても、今までの独仏ハネムーンに亀裂の兆しを嗅ぎ取ることができる。

 EUの優等生であるドイツはいま、強すぎるイメージが反発を招き、弱みを見せれば市場から売り浴びせ、という「外憂内患」の状態に立たされている。

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