2011年8月19日金曜日

旅客機の整備の話。“空の安全”はどう守られている?

旅客機の整備
Business Media 誠 - 08月19日 19:30)

旅客機の整備は、飛行時間や飛行回数によって「ライン整備」「A整備」「C整備」「M整備」の4つの段階に分けて実施される。

空港でスポットに到着してから出発するまでの間に駐機エリアで実施されるのが「ライン整備」。ライン整備は目視による点検が基本。外観に異常がないか、タイヤがすり減っていないかなどをチェックする。旅客機が着陸してから次に出発するまでの時間は、国際線で約2時間、国内線の場合はわずか45分~1時間。もし不具合が発見されれば、その限られた時間内に修理を終えなければならない。ライン整備の仕事は乗客が飛行機を降りた瞬間から始まり、まさに時間との戦いである。 

少しでも効率よく整備を進めるために、最新の旅客機は、上空を飛行中に自機の状態を地上に送信する機能を備えるようになった。整備士たちは、空港に向かって飛行中の旅客機から送られてくるデータや情報をもとに事前に交換部品などを用意し、迅速に対応できる体制をとる。 

こうしたライン整備が各地の空港で日常の運航の合間に行われるのに対し、ハンガー(格納庫)に機体を搬入してより本格的に点検・整備を行うのが、「ドック整備」。

ドック整備は成田や羽田などの主要な空港が舞台になり、飛行時間や期間によって「A整備」「C整備」「M整備」に細分化されている。

●クルマの「車検」に当たるC整備 
エアラインや機種によっても異なるが、A整備は飛行時間で300~500時間(または約1カ月)ごとに行われる。通常はその日のフライトが終わったあとにドック入りし、10人程度の人員で作業を分担。エンジン、フラップ、ランディングギア、ブレーキなどの重要部品のチェックと、オイルなどの補充・交換、各部の清掃などが主な作業項目。整備に要する時間は8時間程度で、翌朝には作業を終えてハンガーアウトする。成田空港で働くあるベテラン整備士は、「深夜から早朝にかけての徹夜作業を終え、翌朝の一番機を送り出すときの気持ちは、言葉では例えようがありません。身体はみんなくたくたですが、整備に当たったどのスタッフの顔も充実感に満たされています」 

一方、飛行時間で4千~6千時間、ほぼ1年から1年半に1回実施されるのがC整備。C整備では機体各部のパネルが取り外され、細部にわたって入念な点検作業が進められる。ハンガーインからハンガーアウトまで最低でも1週間から10日を必要とするC整備は、車でいう「車検整備」に当たる。

●M整備で新品同様にリフレッシュ 
 4~5年に1回、約1カ月かけて進められる。骨組みがむき出しになるまで機体が分解されるほか、塗装もすべて剥がされ、構造的な点検や部品の交換、再塗装などを実施。M整備を終えた機体は、まるで新品同様にリフレッシュされる。 

旅客機はまた、こうした機体の定期整備のほか、エンジンなどの装備品にもそれぞれ定期整備や定期交換が義務づけられている。取り外されたエンジンなどの部品は「ショップ」と呼ばれる専門のメンテナンスセンターに搬入。そこで分解・修理・再組み立てされ、生まれ変わる。 重要部品であるエンジンのオーバーホールや大掛かりなM整備までをすべて自社で行うエアラインは最近少なくなり、大手エアラインでも中国やシンガポール、ドイツなどの航空機メンテナンス専門会社に委託するようになった。

整備を外注しているエアラインでは、戻ってきたエンジンや機体がきちんと整備されているかどうかの入念なチェックが必要なのは言うまでもない。空の安全を守るために、各社とも二重、三重のチェック体制をいかに構築していくかが重要テーマになっている。

●重整備に対応する近代設備 

 主要エアライン各社はそれぞれのハブ空港に近代的な設備を整えた巨大なハンガーを設置し、重整備に対応している。

整備ハンガーを空港側から眺めてみると、まず目につくのが、旅客機を出し入れするためのスライド扉。旅客機を搬入するときに垂直尾翼がひっかからないよう、扉の上部に切り込みを入れてあるハンガー。現時点で最も大きいエアバスA380は、地上から垂直尾翼の先までの高さが24.26メートル──これは8階建てのビルの高さに相当する。 

C整備では、部品を一つひとつ取り外して点検作業を行う必要から、機体のどの場所にも手が届くように「ドックスタンド」と呼ばれる作業用の足場が組めるようになっている。天井には、交換する部品を運搬するためのクレーンなども装備。フロアに配置された大型のラックは、必要なときに必要な工具や器具類をスムーズに取り出せるよう、きれいに整理整頓されている。

重要部品を専門に整備する「ショップ整備」のための施設で、機体から取り外されたエンジンや電子機器などはここで重点的に検査・修理される。

●ヨーロッパ最大の整備格納庫 

主要空港に設置されたエアライン各社のハンガーは、大型機でも一度に2機、単通路の小型機なら3機を収納できるスケールのものが少なくない。M整備で搬入された機体があれば、約1カ月にわたってハンガーの一角が占拠されてしまうので、他の機体の整備も同時に実施するとなるとどうしてもそれだけのスペースが要るのだ。 当然、旅客機が大型化すれば、より大きなハンガーが必要になる。

ドイツのフランクフルト空港で、2008年に開設されたルフトハンザのA380用整備ハンガー。 床面積およそ2万5000平方メートルのこの新ハンガーは、幅79.76メートル、高さ24.26メートルのエアバスA380を、現段階で2機(ボーイング747なら3機)格納できるスペースを有している。

ルフトハンザの幹部は「フランクフルト空港は、今後私たちが運航していく計15機のA380のペース基地になります」と話す。同ハンガーの第2期工事もすでに進行中で、2015年にはA380を4機同時に整備できるヨーロッパ最大の巨大整備ハンガーがフランクフルト空港に誕生する。

●整備工場の見学会

JALの見学会での様子──。 東京モノレールの新整備場駅から歩いて2分。集合場所であるJALの「M1ビル」の正面玄関前に到着すると、参加者全員にネックストラップのついた「見学者ID」が配布される。3階の見学者ホールへ移動する途中でJALのロゴマークの入った作業用つなぎ服を着た整備士たちとすれ違うと、旅客機の整備現場に足を踏み入れたことを否応なく実感する。見学者は最初に見学者ホールでビデオを見ながら簡単な説明を受け、その後はホールに展示されたジェットエンジンや航空機、格納庫などの模型を見学。ここでパイロットやキャビンアテンダントの制服・制帽を着用しての記念撮影もできる。

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