2012年2月6日月曜日

イラン核問題:緊迫のホルムズ海峡 兵士「死にたくない」


●バンダレ・アッバース


ホルムズ海峡の沖合に浮かぶ貨物船。積み荷がないまま長く停泊する船が多いという=2012年1月27日


ホルムズ海峡に浮かぶケシム島。密貿易で栄え、各地で開発も進むが、新たな制裁の余波で景気に陰りが見え始めた



【毎日】2012年2月6日 2時30分
 イラン核問題:緊迫のホルムズ海峡 兵士「死にたくない」

 ◇突然の待遇改善、何を意味するのか

 核開発を進めるイランと、停止を求める米欧の対立が先鋭化している。イラン産原油の輸入禁止で「封じ込め」を図る米欧に対して、イランは、ペルシャ湾の出入り口にあるホルムズ海峡の封鎖もちらつかせる。海峡は湾岸アラブ産油諸国からアジアへの物流の大動脈だ。米国は周辺海域に戦力を展開してにらみをきかせ、高まる緊張に前線のイラン軍兵士は「死にたくない」と不安を漏らす。つばぜり合いの舞台となっている海峡を見た。【バンダルアバス(イラン南部)で鵜塚健】


イラン:緊迫のホルムズ海峡 兵士に突然の待遇改善

市街に雪が積もるイランの首都テヘランから南へ約1000キロ、ホルムズ海峡を望む港湾都市バンダルアバスは気温28度。真冬でも風が生暖かい。イラン海軍の一大拠点である軍港を擁する国防の最前線だ。

 130人乗りの高速艇で港を出る。海は穏やかだ。沖合に100隻近い貨物船が浮かぶ。「目をこらして、よく見ろ。1カ月前から、積み荷のない船ばかりだ。制裁の影響さ」。操縦士(45)が貨物船の群れを指さす。詳しい話を聞こうとすると、口を閉ざした。

 「(米欧による新たな)制裁が発動されれば、原油は一滴も通れなくなる」(ラヒミ副大統領)。イラン政府は世界の海上輸送原油の35%が通過する海峡の封鎖を警告して米欧に揺さぶりをかけてきた。制裁発動を阻止し、米・イスラエルとの軍事衝突を避けたいのがイランの本音だ。

 欧州連合(EU)のイラン産原油禁輸決定を翌日に控えた1月22日。米空母エーブラハム・リンカーンが英仏艦船を従えて海峡を通り、ペルシャ湾に入った。イラン海軍の男性兵士(34)は「海峡周辺の米艦船の動きをレーダーで追う日々だ。現場の空気は緊迫している」と明かす。

 2カ月ほど前から給与とは別にコメや肉などの食料が兵士に配給されるようになったという。「突然の不自然な待遇改善は何を意味するのか。私には妻と3人の子供がいる。戦争で死にたくはない」。男性兵士がざわつく胸中を吐露する。

 ◇密貿易の島は悲鳴

イラン南部の港湾都市バンダルアバスから船で1時間南下し、ペルシャ湾最大の島・ケシム島に渡った。面積(約1500平方キロメートル)は北方領土の国後島とほぼ同じだ。横たえた「矢」の形で、ホルムズ海峡に浮かぶ。島はイランを取り巻く安全保障環境の移り変わりを目撃してきた。イラン・イラク戦争中の1988年、米軍艦の誤射でイランの民間航空機が沖合に墜落し、290人が死亡。当時もイランは海峡封鎖を宣言し、国際社会に緊張が走った。

 約11万人が暮らす島は密貿易の拠点だ。税関を通らない電化製品や偽ブランドの衣服などが集まる。多くはペルシャ湾をはさんで対岸のアラブ首長国連邦(UAE)からオマーンを経由して島に運び込まれる。

 島の漁師、ヤシンさん(34)は10年以上、密輸にかかわっている。UAEに住むイラン人商人から連絡が入ると、軍や警察の目を盗み、夜陰に紛れて小型ボートで海にこぎ出す。約50キロ離れたオマーン・ハッサブまで海峡を往復して荷物を運ぶのだ。「米空母に出くわしたこともある」

 密輸はイランの輸出入を制限する米欧主導の制裁の「副産物」でもある。だが、ヤシンさんは「昨年末から仕事は3、4割減った。海上警備も厳しくなり、やりにくくなった」と打ち明ける。イランの裏経済を支え、密輸で栄えた島がいま、冷え込んでいる。

 理由はイランに対する米欧の原油禁輸の動きだ。禁輸が取りざたされ始めた昨年末以降、原油輸出減と外貨不足への懸念から市民や資産家が米ドルや金に殺到。ドルやUAEの通貨ディルハムが急騰する一方、イラン通貨リヤルは対ドルで最大50%暴落した。相場の変動が交易にブレーキをかけた。密貿易だけでなく、正規貿易も打撃を受けている。制裁下、海外物資の「中継地点」の役割を果たしてきたUAEからの輸入は年20~30%増え、10年は212億ドル(イラン税関)と輸入総額の3割を占めた。だが、11年のUAEからの輸入の伸びは鈍化する見通しだ。

 原油禁輸がイランの台所を直撃しつつある中、海峡を巡り米国との緊張が高まる。ケシム島の海岸沿いでは、土のうを積んだ数メートル四方の陣地が建設中だ。「(イラン指導部を支える)革命防衛隊のものだ」。タクシーの男性運転手(27)が周囲をはばかるように耳打ちした。【ケシム島(イラン南部・ホルムズ海峡)で鵜塚健】

 ◇イランと米 共に対決姿勢崩せず
 核開発問題を巡りイランは国際原子力機関(IAEA)の調査団を受け入れて疑惑解明への協力姿勢を示す一方、欧州連合(EU)への原油輸出停止を警告するなど硬軟両面の対応で米欧に揺さぶりをかけている。

 イランは親米王政を打倒したイスラム革命(79年)で政教一致の「イスラム指導体制」を築き上げた。だが、制裁で国際的な孤立が深まり、経済疲弊が進む。高まる国民の不満をそらすため対外的には強硬姿勢を取り続けざるを得ない。

 背景には、3月の国会選挙を控え、政権を握る保守派内で、アフマディネジャド大統領らと、強硬派のラリジャニ国会議長ら反大統領派の主導権争いが激化している事情がある。大統領は「行き詰まり打開のため、将来的にイスラム体制変革を考えている」(外交筋)との見方も出ている。反大統領派はこうした動きを恐れ、体制維持のために国内引き締めに躍起なのだ。

 一方、米国も11月の大統領・議会選を控え反イラン色を強めなければならない。だが、オバマ政権は世界経済の混乱を招きかねない武力行使には慎重で、しびれを切らしたイスラエルによる単独攻撃を警戒している。

 オバマ米大統領は一般教書演説で、イランの核兵器保有を阻止するためには「いかなる選択肢も排除しない」と軍事行動の可能性をにおわせる一方、「平和的解決は可能だ」と強調した。

 イラン攻撃に踏み切れば原油価格の高騰を招き、米経済への打撃となる。オバマ政権の強硬姿勢は大統領選を前に共和党からの「弱腰」外交批判を封じるポーズの側面もある。

 米紙ワシントン・ポスト(電子版)はイスラエルが4~6月にイランを攻撃しなければ核兵器製造を阻止できないと判断、パネッタ米国防長官が自制を呼びかけていると報じた。【テヘラン鵜塚健、ワシントン白戸圭一】

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