2012年1月18日水曜日

自衛隊のコスト、航空機や戦車、艦艇などを開発・製造する防衛産業の実態とは -

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(週刊東洋経済2012年1月21日号)
自衛隊のコスト、航空機や戦車、艦艇などを開発・製造する防衛産業の実態とは - 12/01/18 | 00:03

 2011年3月に発生した東日本大震災をきっかけに、自衛隊の存在感が急浮上している。最大10万人を超える態勢で救助活動や復興支援を行う献身ぶりに、国民、特に被災地の住民は頼もしく思ったに違いない。

 とはいえ、国民はこれまで、自衛隊について思い、考えたことがどれほどあっただろうか。自衛隊員は何人いて、どれくらいの予算が使われ、戦車や艦艇、航空機といった装備がどうつくられ、彼らがどう使っているのか。それを支えるのは税金だが、これまで一度でも真剣に考えたことがあっただろうか。

 自衛隊は「合憲」か「違憲」かといった、憲法議論はここではしない。ただ、現実に存在する自衛隊を取り巻く経済活動にはどのようなものがあり、現状はどうなのか。『週刊東洋経済』2012年1月21日号は、それを明らかにしようと試みた。

 日本の「防衛産業」にとって、顧客はただ一つ、防衛省・自衛隊だ。装備は自国防衛のため、また日本製の武器で他国を傷つけることがあってはならないとする考え方に基づいた「武器輸出三原則」で、輸出が禁じられているためだ。

 防衛予算の規模は、半分近くは隊員たちの人件費といった固定費が占め、装備品の購入といった物件費は2・5兆円程度。この中から、護衛艦や航空機をはじめ、自衛隊員が使う装備品の購入に使われる。

 自衛隊に納入する装備を製造する主な企業には、日本を代表する企業が勢ぞろいしている。三菱重工業や川崎重工業のように、航空機や艦艇など多くの装備品を1社で製造している企業もあるものの、ほかはある程度の「すみ分け」が存在する。

 また、一つの装備品の製造には、多数の下請け企業がかかわっているのも、民生品と同じ。たとえば航空機の生産では、大企業が「主契約社」(プライムコントラクター)として防衛省と契約するものの、実際の製造にはベンダーと呼ばれる企業がかかわる。戦車で約1300社、護衛艦では約2500社ものベンダーがかかわり、その大部分が中小企業だ。中には、オンリーワンの技術を持ち、その技術がなければ生産が成り立たないという企業も少なくはない。

 緊縮財政が続く中、防衛予算も右肩下がりが続く。それは直接、防衛産業に影響を与えている。

 防衛産業への装備発注が確実に減っている中、各企業は自らの事業基盤の維持に四苦八苦している。防衛省からおカネが落ちなければ、売り上げも立たない。また、装備品の生産設備には、民生品の製造などに転用できない特殊な設備も多く、その維持もできなくなる。設備だけでない。職人技といった人材に頼る部分が多い装備品も少なくはない。今後も発注が減少すれば、そうした人・モノを手放さざるをえなくなる。

 大企業さえも状況は同じだ。欧米をはじめとする外国の防衛産業は、「防衛専業」が多い。一方、日本では数ある事業の中の一部門であることが多く、一社全体の売上高に占める割合も数%程度。最大手・三菱重工業でも10%にも満たない。

 そのため、これら企業は、「防衛事業はお国のため」という使命感で事業を継続している側面もある。他事業の経営が好調であれば、防衛事業を支えられるが、他事業の収益が落ちれば防衛事業の存続も危ういという企業も少なくはない。

 単価が高いゆえに高利益。時にそう指摘される防衛産業だが、それは必ずしも当たらない。
 
 たとえば、護衛艦の場合、建造開始からおよそ4年ほどの時間がかかるが、計画段階から民間企業が深くかかわっている。企業は計画のコンセプト立案から技術の検討、実際の見積もりなどで防衛省に協力しており、企業側が無償で協力するケースも少なくはない。コスト負担が先行することは、ほかの装備品製造でもよくあることだ。

 また、防衛産業独特の事情が、企業の収益を圧迫している側面もある。前述した研究開発費まで企業側が負担する点や、コスト削減など企業側の努力で安く納入できても、その分のインセンティブが働かないといった契約の問題が指摘されている。

 そのうえ過当競争という業界の構図も浮かび上がる。ここでは、防衛予算が減少する中、競争入札の導入が積極的になっていることも、業界に向かい風となっている。

 競争入札が積極的に導入されたのは、旧防衛施設庁談合事件(06年)や元防衛事務次官も逮捕された山田洋行事件(07年)といった不祥事への反省のためだ。

しかも、前述のように研究段階から企業がコスト負担する構図が残る中で、従前からかかわっていた企業が競争入札により落札できないこともありうるなど、企業努力が必ずしも報われない事例が防衛産業の構造的問題としてあるようだ。

 こういった問題はすでに10年以上前から指摘されてきたことだが、改善に向けた防衛省側の行動は遅かった。防衛省内に「契約制度研究会」「戦闘機の生産技術基盤の在り方に関する懇談会」「防衛生産・技術基盤研究会」といった研究会が設置され、防衛省と防衛産業の関係を改善・発展させる議論が本格化したのは、この1~2年のことである。

 軍隊というものは本来、ないに越したことはない。ただ、世界の状況や中国、朝鮮半島情勢などの日本を取り巻く環境を考えれば、日本だけが軍備を持たないわけにもいかない。

 自衛隊の本来の目的は、国民の生命と財産を守ること。防衛産業は、その目的を支える重要な役回りである。
 
 『週刊東洋経済』2012年1月21日号では、防衛産業のありのままの姿と課題を探った。

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