2011年12月26日月曜日

CIAも「お手上げ」の北朝鮮の秘密主義 菅原 出

●_北朝鮮の動き

 10月08日

 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、「金正恩党中央軍事委員会副委員長を心から奉じなければならない」と述べ、正恩氏への忠誠を求めていたとする記事を掲載。

 記事は「12月の誓い」と題した随筆。ほかに金総書記が「幹部らは党の周囲で心を一つにして仕事を立派に行っていかなければならない」と語ったことも紹介している。


 10月19日午後9時以降 朝鮮中央テレビ 名物女性アナが姿を消す


北朝鮮と約1300キロメートルを接する中国。北朝鮮の安定は、中国にとっても気がかりである

この菅原出(42)の肩書きは、国際政治アナリストだそーだが、諜報機関の活動、及び、北朝鮮の内情に就いては、以下の記事内容を読む限り、あまり明るくない様子だ。知っていても、出さないことがある。

CIAや中国諜報機関は

金正日の死亡時刻は、12月16日(金)午前1時30分~2時で、CIAは隠密に動いている

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20111222/225562/?mlh2&rt=nocnt


【日経ビジネス】2011年12月26日(月)
 CIAも「お手上げ」の北朝鮮の秘密主義 菅原 出

 金正日総書記の死去にともない、北朝鮮が「新しい顔」を立ててイメージ・チェンジをはかり、米中韓から援助を獲得して息を吹き返す可能性がある。米国、中国、韓国そして日本は、北朝鮮に対してそれぞれ政策上の優先順位が異なっている。各国がそれぞれ自国の国益を優先させて北朝鮮と取引をすれば、金正恩新体制の基盤固めに貢献するだけでなく、日本にとって重要な懸念事項が取り除かれないまま、北朝鮮が息を吹き返す可能性がある。2012年は、日本の北朝鮮外交にとって正念場になりそうだ。

CIAも「お手上げ」の北朝鮮の秘密主義

 12月17日正午に北朝鮮の朝鮮中央テレビが特別放送で伝えた「金正日総書記死去」は、日本国民だけでなく、世界各国の政府の中枢にいる指導者たちにとっても寝耳に水の衝撃的なニュースだった。

 北朝鮮指導部の動向に最も敏感なはずの韓国では、李明博大統領が自身の誕生パーティーを開催していた。しかも北朝鮮情報の収集・分析を担う国家情報院の元世勲院長が、「テレビを見て金総書記死去の事実を知った」と証言したことで、韓国では李政権や国家情報院を非難する声が強まっている。

 また世界最大の諜報機関・米中央情報局(CIA)もこの事実を事前に察知することが出来なかった。ただし、米国の諜報機関が北朝鮮絡みの重要事件を察知できなかったのは何も今に始まったことではない。

 2007年にイスラエルが空爆したシリアの核施設は北朝鮮の協力によって建設されたものだったが、米国はイスラエルの情報機関にその事実を知らされるまで知らなかったと言われている。また、2010年にはスタンフォード大学の科学者たちが北朝鮮に招待され、新しいウラン濃縮施設を見せられるまで、米国の諜報機関はその施設に気がつかなかった。

 過去にこれだけ重要な事実を米諜報機関がまったく察知できなかったこともあって、北朝鮮については「あの国の内部事情は分からない。もうお手上げ」という一種の諦めが米国内で支配的になっているのかもしれない。今回の「インテリジェンスの失敗」でオバマ政権やCIAを非難する声は米国ではあまり聞こえてこない。

北朝鮮の内部権力闘争はすでに決着済みか?

 北朝鮮の新しい指導者となる金正恩氏に関しても、米メディアでは「われわれはこの人物についてほとんど何も知らない(米タイム誌)」といった自信の無い書きぶりの記事が多く、「実績のない」「未知の」といった表現が数多く使われている。

 一般的に「未知のもの」「知らないもの」に対して人は不安や懸念を抱くが、米メディアの論調を見ても、「この若い後継者は国をまとめていけるのか」「軍部をコントロール下に置くことが出来るのか」「北朝鮮は内部対立から混乱に陥るのではないか」といった見方が多く紹介されている。

 日本でも「北朝鮮暴発」「国内権力闘争激化による崩壊」といったセンセーショナルな記事が一部のメディアで報じられている。もちろん金正恩新体制が権力基盤の確立に失敗し、内部崩壊する可能性がないとは言えない。金日成から金正日への権力移譲が20年かけてじっくり行われたのに対し、金正恩が表に姿を現わしたのはわずか一年前のことであり、まだ20代の正恩は見るからに心許ない。

 しかし、北朝鮮では少なくとも過去2年以上かけて、金正恩体制へ移行するための基盤固めと思われる軍部の人事や、不満分子の粛清が行われてきており、国内の権力闘争には一定の決着がついたのではないか、との分析も成り立つ。

 目立った動きだけを見ても、2010年4月15日に、金正日は太陽節を契機に「大将」4人を含む軍の将軍100人を大挙昇進させており、同年9月の労働党代表者会の前日には、金正恩、金慶喜をはじめとする6人に人民軍大将の称号を付与した。またこの時、上将1人、中将6人、少将27人の昇任人事も断行されている。さらに今年の4月15日の太陽節の2日前には、上将2人、中将5人、少将38人に対して、軍最高司令官(金正日)名義で昇任措置がなされた。2010年4月から2011年4月までの1年間で、実に185人の階級章に星が追加されたという。

 これらの動きを伝えた韓国の北朝鮮情報専門サイト『デイリーNK』は、こうした措置の裏には、人民軍を「金正恩の軍隊」として再編する過程で、「若手の新進軍部グループを浮上させ、後継安定化を図る目的がある」と分析していた。

 同様に反対派や不満分子の弾圧や粛清も相当激しく行われたようである。北朝鮮の人権状況をモニターしているアムネスティ・インターナショナルは12月20日に、「過去1年間にわたる情報収集の結果、金正恩とその支持勢力が後継体制の足場固めのため、粛清を強化している」と発表している。粛清された政府当局者は数百人に上り、処刑されたり、政治犯収容所に送り込まれたりしているという。

 また、過去2カ月間、北朝鮮国内で不正摘発を名目に、地方の党幹部や情報機関の高位幹部が多数逮捕されている。『デイリーNK』は、10月以降「金正恩氏主導の粛清作業」を繰り返し伝えており、「一連の綱紀粛正は金正恩氏が主導しているといわれているが、そのあまりの厳しさに『金正恩氏は普通ではない』とささやかれている」(10月31日付)などと報じていた。


 CIAや韓国の情報機関が分からないくらいなのだから、北朝鮮内部で何が起きているのかは想像の域を出ない。この分析も、断片的な情報を繋ぎ合わせて得た仮説に過ぎないが、この仮説が正しいとすれば、少なくとも当面は内部崩壊の蓋然性は低いということになるだろう。

 当面内部崩壊の可能性が低いとしても、新体制を確立して持続させるには、外国から援助を獲得する必要がある。

北朝鮮の「安定」に利益を見出す米中韓
 では北朝鮮情勢に大きな影響を及ぼし得る外部勢力は、金正恩新体制に対してどのような影響を与える可能性があるのだろうか。

 この国に最も影響力の強い中国は、いち早く北朝鮮の新体制を支持する姿勢を見せている。20日には胡錦濤国家主席や習近平国家副主席が、21日には温家宝首相や李克強・筆頭副首相ら共産党政治局常務委員5人が北京の北朝鮮大使館を弔問し、中朝の友好関係を重視している姿勢を内外に示した。

 また中国外務省のスポークスマンは、「中国と北朝鮮は常に高いレベルの相互訪問を維持してきており、両国にとって都合のよい機会に北朝鮮の指導者たちが中国を訪問することを歓迎する」との声明を発表し、金正恩の名前は出さないものの、新しい北朝鮮の「指導者たち」を支持する姿勢を鮮明にしている。

 一方韓国も不必要に北朝鮮の新体制を刺激することを避け、不安定化を防ごうと気を遣っている様子がみてとれる。韓国国防省は20日、宗教団体の要請により南北軍事境界線付近の3か所で23日から予定していたクリスマスの電飾を、今年は取りやめるとの決定を発表した。このクリスマス電飾に対しては、これまで北朝鮮が「キリスト教徒による悪質なプロパガンダで心理謀略戦である」と反発してきたのだが、韓国政府は金正日総書記の死去を受け、北朝鮮への刺激を避けるために、今年は電飾を行わない方針を決めたのだという。

 北朝鮮の不安定化を避けたいと考える近隣諸国は、北朝鮮を無用に刺激したり不安定にさせるような行動は出来る限り避けようとしている。ここで近隣諸国が「北朝鮮の新政権を改革の方向に導くため」などと考えて援助でも与えれば北朝鮮の思うつぼである。すでに北朝鮮はこの機会に新たな援助を受けるための積極外交に出ている。朝鮮通信は23日、北朝鮮の対韓国窓口機関である「祖国平和統一委員会」が韓国からの全ての弔問団を「同胞愛の情で丁重に受け入れる」と表明したと伝えている(24日付『読売新聞』)。

 さらに米国のオバマ政権も、朝鮮半島の安定を重視しつつ、北朝鮮との対話を継続する意志のある姿勢を見せている。米国務省のヌーランド報道官は20日、北朝鮮と食糧支援問題についてニューヨークのチャンネルを通じて協議を行ったことを明らかにした。同報道官によれば米政府は19日にニューヨークで北朝鮮側と技術的な協議を行ったという。金正日総書記の死去が発表されてからわずか2日後に、米朝が早くも公式に接触したのである。

 米国と北朝鮮は「金正日死去」発表の直前まで食糧支援をめぐる協議を行っていた。米国は食糧支援を人道問題と位置づけ、北朝鮮の核問題とは切り離して交渉していると表向きは説明しているが、同時に北朝鮮にウラン濃縮の停止など非核化に向けた行動を要求しており、実質的に食糧支援と引き換えに核問題での譲歩を迫る交渉を進めていた。米AP通信が伝えたところによると、米国は北朝鮮に対する食糧支援を発表し、その数日後には北朝鮮がウラン濃縮プログラムの停止を発表することで両国は合意に達していたという。

 米朝協議は今年の夏ころからニューヨーク、ジュネーブや北京で重ねられ、北朝鮮が核や弾道ミサイルのテストを停止し、2009年に追放した国際原子力機関(IAEA)の査察官を受け入れることでもすでに合意しており、最後まで残っていたウラン濃縮停止について最終的な協議が進められ、そこでも基本合意に至っていた。これに対して米国はビスケットなどの栄養補助食品を毎月2万トン、計24万トン北朝鮮に支援することになっていたという。

 オバマ政権が、金正日死去後早々に北朝鮮との接触を開始したということは、この食糧支援と核問題の合意を、金正恩新体制とも継続して進めていきたいという意図の表れではないかと思われる。

 こうして見てみると北朝鮮と大きな利害関係を有する中国、韓国、米国はいずれも北朝鮮が不安定化するのを望んでおらず、それゆえ北朝鮮が生き残ってこられたという国際的な基本構図に変化が見られないことが分かるであろう。

息を吹き返す北朝鮮

 このままいくと、中国が金正恩新体制を支持し支援を与えるだけでなく、韓国も弔問外交を通じて新体制へ援助を与えそうである。そして、米国も新政権との取引を前進させるつもりである。大統領選挙を前にしてオバマ大統領は北朝鮮核問題で外交的成果を上げたいと考えているはずである。米国が功を焦って食糧援助に踏み切れば、金正恩新政権の体制固めへ米国が加担することにもなりかねない。オバマ政権は「北朝鮮の核問題で一定の成果をあげた」と宣伝し、金正恩新体制も「米帝国が貢物を持参した」と宣伝して国内の権力基盤固めに大いに利用することだろう。

 北朝鮮にとって、最近自ら公開したウラン濃縮施設の停止など痛くも痒くもない。北朝鮮の核兵器関連活動は多岐にわたっている。そのさまざまな活動のもっとも重要でない部分から「やめてもいい」と言ってその引き換えに援助を獲得していけばいい。米国は核問題で北朝鮮に対して「やめて欲しい」と思っていることがたくさんある。北朝鮮としてはその一つ一つを「切り売り」して米国から援助を獲得したい。こういう交渉になれば「外交カード」の多い北朝鮮に有利となる。

 しかも米国が「核」を最重要視しているのに対し、日本にとっては「拉致問題の解決」が最重要課題であり、日本の領土に届くミサイルの脅威を取り除くことが大事である。しかし中国や韓国が北朝鮮の不安定化を避けるために北朝鮮に援助を与え、米国が核活動の一部の停止と引き換えに援助を与えるのであれば、北朝鮮が日本に妥協しようというインセンティブは低くなる。さらに米国や韓国が北朝鮮の核兵器活動の一部の停止と引き換えに、例えば軽水炉原発を北朝鮮に提供するなどという取引に合意してしまい、日本がそうした「国際的な取り組み」への協力を要請されたならば、日本にとっては最悪のシナリオとなるであろう。

 もし北朝鮮が金正恩という新しい顔を前面に立てて、見せかけの「協調外交」「平和外交」を仕掛けてくるとすれば、大統領選挙を前にして外交的成果を上げたいと願っている米国と韓国の大統領は、目先の利益を優先させて乗せられてしまうかもしれない。各国がそれぞれ自国の国益を優先させて北朝鮮と取引をしていけば、金正恩新体制の基盤固めに貢献するだけでなく、日本にとって重要な懸念事項が取り除かれないまま、北朝鮮が息を吹き返す可能性があることにわれわれは十分に注意する必要がある。

 今こそ、日本は対北朝鮮外交の目標を明確に定め、上述した新たな戦略環境の中で、米国や韓国などの主要アクターがどのように動くかを予測し、様々な事態のシミュレーションを行い、日本の国益を守るための政策を打ち出していかなければならない。2012年は、日本の北朝鮮外交にとって正念場になりそうだ。

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