2011年8月13日土曜日

ベルリンの壁建設から50年 犠牲になった市民を追悼 くすぶるマルクス主義への幻想

【産経】2011.8.13 19:34

 【ロンドン=木村正人】1961年8月、当時の東ドイツがベルリンの壁の建設に着手して13日で50年が経過した。冷戦終結に伴うグローバル化などで金融バブルが崩壊し、欧州はいま、債務危機の暗雲に覆われている。金融資本主義への嫌悪感から、ドイツでは共産主義の非人道性の象徴だった「壁」を正当化する声さえあるのが実情だ。英国ではマルクス主義を再評価する風潮への警戒感が強まっている。

 ドイツのメルケル首相やウルフ大統領、ウォーウェライト・ベルリン市長らはこの日、ベルリンの壁の一部が残されているベルナウアー通りで、建設50年記念行事に出席。壁を乗り越え西側へ逃れようとして、警備兵に射殺されるなどした犠牲者を追悼した。壁の建設から崩壊までの28年間で死者は少なくとも136人に上るとみられている。

 旧東ドイツ出身のメルケル首相は「壁が築かれ、親類に会えなくなった」と暗い時代を振り返るが、ベルリンでは旧東独出身者を中心に壁を正当化する声は決して小さくない。

 独世論調査会社がベルリン市民約1千人を対象にアンケートをしたところ、壁建設について3分の1以上が「東独からの難民流入を阻止し、緊張を安定化させるのに必要だった」と肯定的にとらえていた。ウォーウェライト市長は「人々が壁の悲惨さを理解していないとしたら残念だ。壁に関する記念行事は続けるべきだ」と主張している。

一方、英大学街ケンブリッジでは、著名な英文芸批評家イーグルトン氏の「マルクスはなぜ正しかったのか」などマルクス関連本が書店に並べられ、マルクスの「資本論」がベストセラー入りする。英BBC放送の調査でも、マルクスは1999年と2005年に「最も偉大な思想家」「最も影響力のある哲学者」にそれぞれ選ばれている。

 前駐ロシア英国大使のトニー・ブレントン氏は「金融危機のさなかにあっても、資本主義はより多くの人の生活を豊かにしている。この25年の間に中国の5億人、インドの4億人が極貧から脱出できた。若い世代は共産主義の結末を知らない。共産主義は独裁を導き、多くの人が粛清された歴史を若い世代に伝えるべきだ」と警鐘を鳴らしている。

【用語解説】ベルリンの壁

 東西冷戦期の1961年8月13日未明、当時の東ドイツ政府が国民の西側への脱出を防ぐため、西ドイツの飛び地だった西ベルリンの周囲に有刺鉄線を敷設。その後、全長約160キロにも及ぶコンクリート製の壁を設置した。しかし80年代後半、東欧で民主化要求の流れが強まるなか、89年11月9日に東独市民が検問所に殺到。警備兵が検問所を開放し、壁は事実上崩壊した。

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