【朝雲】8/4日付
遠航部隊、パナマ運河通峡 長い艦内生活も順調
サンディエゴ沖で米海軍艦艇と合流し、通信訓練や洋上補給などの親善訓練を行う遠洋練習航海部隊(6月26日)
5月24日に東京・晴海から、北米、中南米など6カ国14都市を巡る航海練習に出発した海自の遠洋練習航海部隊(練習艦「かしま」「あさぎり」、護衛艦「みねゆき」で編成、指揮官・大塚海夫練艦隊司令官以下、実習幹部約180人を含む約730人)は、太平洋を横断して米・アンカレジ、カナダ・バンクーバー、米西海岸のシアトル、サンフランシスコ、サンディエゴを経てパナマ運河を通峡。カリブ海に出てメキシコ・ベラクルス、米東海岸のタンパを経て8月2日にノーフォークに寄港した。以下は遠航部隊から届いた乗員の航海日記と実習幹部の所感文――。
2011航海日記
6月19日(日)晴れ 海士長 若生 和馬 (「かしま」2分隊)
シアトルを出港して2日目、部隊は本格的な訓練を再開した。午前中は蛇行運動や占位運動、各科訓練が行われた。午後からは防火訓練の前に実習幹部による操艦訓練を実施。運航勉強会の前に実習幹部に対する司令官講話もあった。さらに艦上体育中に洋上移送が実施されるなど忙しい1日となった。
訓練自体は、それぞれの部署で全力で挑んでいるが、まだまだ改善の余地があるため今後も分からないことや知らないことを先輩に聞くなどして練度向上に努めたい。
6月20日(月)曇り 2海曹 藤本 賢治 (「みねゆき」2分隊)
日本を出港して間もなく1カ月経つ。これまで長期海外行動の経験があり、慣れていると思っていたが、このごろ、時間が経つのがとても長く感じる。 1週間前、妻から4歳の娘が「かなしい病」をわずらっているらしいと知らされた。幼稚園に行く時もシクシク泣き、元気に遊んでいても途中でまたシクシク…。娘いわく「父ちゃんが出港してて、全然帰って来んのやもん」。うれしいやら悲しいやら複雑な気持ちで1週間過ごしたのが、長く感じた原因かもしれない。しかし娘も様々な気持ちと闘って成長してくれると信じ、娘に負けることなく、私も成長できるように日々過ごしていきたい。
6月21日(火)晴れ 3海曹 日野 成廣 (「かしま」3分隊)
3カ所目の寄港地であるサンフランシスコに入港した。接岸後すぐに生糧品搭載、レセプション準備等で忙しい時間を過ごしたが、今回の航海も無事終えることができて一安心である。これからまだまだ長い航海が待っているのでサンフランシスコでしっかりと英気を養って次の航海、訓練に備えたい。
6月26日(日)晴れ 海士長 萩平 尚子 (「あさぎり」1分隊)
サンディエゴを出港し、パナマへの長い航海が始まった。寄港地ごとに思い出ができ、出港の際は少々感傷的な気分になってしまうが、港を出てしまえばもう気持ちは次の寄港地に向かっている。パナマでの史跡研修を楽しみに諸訓練をこなしていきたい。 個人的にはサンディエゴで実施した体重測定の結果に大きな危機感を抱いている。増えてはいるだろうとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。健康と体型維持のため、真剣にダイエットに取り組もうと固く決意した。 行列のできる食堂のおいしい食事や200円で買えるハーゲンダッツ、寄港地でつい買いこんでしまうお菓子など誘惑は多いが、それを振り切り、艦上体育を大いに活用して健康的に楽しくダイエットしたい。
6月28日(火)曇り 3海曹 濱辺 貴司 (「あさぎり」1分隊)
携帯のアラームに起こされ、しぶしぶベッドを背にして朝食を済ませ、日課である点検と訓練を実施した。「あさぎり」に乗艦して3カ月が経つが、いまだに機器の操作が不十分だ。遠洋練習航海はまだ始まったばかりであるが、1日でも早く機器の操作に習熟したい。朝の日課を終え、艦橋に上がり3時間の見張り当直についた後、午後から防火訓練と洋上補給を行った。赤道に近づき気温が上昇してきた。今後、長い艦内生活を送るためにも体調管理を万全にしておきたい。 私は「あさぎり」に乗艦して良かったと思っている。生徒課程を卒業して、ほとんど何も知らない状態で乗艦したが、練習艦ということで、毎日のように訓練が実施され、同期とは経験した訓練回数が違ってくるため、自分自身の技術向上が必然的に早くなる。長い艦内生活を乗り切る精神力もつき、異文化とも触れ合える貴重な体験もできる。若さと元気で頑張っていきたい。
7月6日(水)晴れ 海士長 岸本 猛史 (「みねゆき」4分隊)
「すずなみ」から転勤して2カ月が過ぎた。分隊の先輩からの指導も丁寧であり、質問もしやすく、艦内の雰囲気にも慣れてきて、毎日の訓練作業が充実していると感じる。 私は、この遠洋練習航海に希望して乗艦した。「かしま」のレセプション料理は写真で多々見る機会はあったが、実際にそれを自分で調理したかったからだ。 念願かなって、アンカレジ、バンクーバー、サンディエゴとレセプションでその機会を得られた。やはり部外の一般の方やVIPも喫食するとあって、調理の緊張感、料理の見せ方等、隊員を対象に提供する時とは違って非常に勉強になり、私にとって大きな財産になった。明後日のパナマでのレセプションも楽しみだ。
7月7日(木)晴れ 2海尉 田口 瑛子 (司令部=「あさぎり」)
本日、パナマに入港した。4カ所目の寄港地である。幸いにも各寄港地では日本語が達者な現地の人と話す機会が多く、自由に会話ができ、楽しかった。英語も同じように使いこなせれば、どれだけ世界が広がるかと思うと英語の勉強に対するモチベーションも上った。 艦内生活もまた興味深い。船に乗るのはほぼ初めてであり、見るものすべてが新鮮に感じる。乗員にも顔を覚えてもらいたいと様々な場所に顔を出しているが、ただ作業を見ていても分からないとつまらないので、思わずいろいろと聞いてしまう。迷惑にならない範囲にしたいと思う。 医者としての技能を磨けないという焦燥感はある。しかし、他の医者が経験できない5カ月の遠洋航海を通して人間性を深めたい。
実習幹部所感
米海軍の補給艦「ユーコン」(右)と燃料補給ホースをつないで洋上補給訓練を行う練習艦「かしま」
想定外の事態どう対処? 3海尉河野奈津美(かしま)
サンフランシスコからパナマまでの航海中、私たちの行う訓練は本格的なものに変わっていった。例えば、今までは海中に落下した乗員を助ける訓練ではサメが出る想定はなかったが、サメが現れると想定されるようになった。サメが現れると、溺者を守るため、サメを撃つ者が必要になる。 また衝突等により船体に穴が開いた場合を想定し、艦内に入ってくる海水を止めるための訓練では、作業中にけが人が出るという想定が加わった。 その他の訓練でも、今までになかった想定が加えられるようになり、訓練の難易度は高く、実際に近いものになった。 本番では何が起こるのかわからない。予想外の事態が同時多発的に発生することも考えられる。私たち実習幹部は、少しでも、その違った訓練を異なった配置で行い、訓練をうまく行うためにどうすれば良いか悩んでいる。しかし、毎日が新しいことの連続で、刺激的で充実している。
日米で異なる国歌への姿勢 3海尉尾形賢幸(かしま)
6月6日から同9日まで、遠洋練習航海の最初の寄港地、米アラスカ州のアンカレジに入港した。人口は約28万人とアラスカ最大の都市で、州全体の約4割の住民が暮らしている。 アラスカといえば寒冷の気候のイメージがあるかもしれないが、われわれが入港した時は幸い天候にも恵まれ、昼に気温が上る時は半袖で過ごすこともできた。 周辺には濃密な森林や険しい山脈を望むことができ、緯度が高いために午後10時、11時になっても太陽が沈むことなく、まさに「最後のフロンティア」と呼ばれるアラスカの大自然を感じることができる。 入港初日はフォートリチャードソン陸軍基地やエルメンドルフ空軍基地の研修と米国人戦没者およびアッツ島日本人戦没者慰霊碑への献花を行った。エルメンドルフ空軍基地では最新鋭の戦闘機などが配備され、頻繁に離発着が行われ、米国においてアラスカが持つ戦略的な意味の大きさを実感した。 今回の入港では、アラスカ、アンカレジについての理解を深めるとともに、米国の一つの側面を見ることができた。例えば、米国人の国歌を尊重する姿勢がある。自衛艦旗を掲揚する際に米国の国歌が流れた時、港で作業していた人々は一斉に手を止めて国歌の流れている方向へ正対し、胸に手を当てて不動の姿勢をとっていた。公務員や軍人などだけでなく、一般の人々がこのような行動をとっていることを新鮮に感じるとともに、米国と日本の国旗や国歌に対するギャップも感じた。
米海軍の最新鋭艦を見学 3海尉小澤直斗(みねゆき)
サンディエゴ入港は、この遠洋練習航海において米海軍の主要な基地のある都市への初寄港であった。今回は民間の桟橋への係留であったが、米海軍基地がすぐ近くにあり、空母や米海軍の基地を眺めることができた。他にも二つの航空部隊の基地や、巨大な艦艇部隊の基地、潜水艦や特殊部隊の基地などがあるほか、ほとんどの店やテーマパーク、博物館等で軍人割引があり、米海軍ととても深く関わっている都市だと感じた。 1日目の研修では、米海軍の最新鋭艦の一つである沿岸戦闘艦「フリーダム」と病院船「マーシー」を見学した。 「フリーダム」は「はつゆき」型護衛艦より小さく、乗員は40人程度しか乗艦していないが、任務に合わせて船体の空所部にコンテナを搭載することで多種多様な任務に当たることができる。また任務に合わせて専門の乗員を乗艦させたり、目的に沿ったヘリが搭載できるように格納庫と飛行甲板に余裕があるなど、非常に柔軟性のある艦艇である。 ほかにも、艦橋は3人だけで操艦できるよう当直士官の手元で針路速力の設定や多数のカメラを使った見張りができる仕組みになっている。CICにおいても、1人で四つ程度のコンソールを操作できる最新機器を装備していた。 外見については、ステルス性の向上や50ノット近くの速力を発揮するため、次世代艦の特徴である非常にシャープな形状をしていた。 病院船「マーシー」については、多様な検査や外科手術もできるほか、無菌室やMRIも装備。眼科による眼鏡の作製や歯科治療、産婦人科での出産も可能で、移動可能な総合病院のような船であった。 この「マーシー」だけでなく、近くの造船所や基地内の売店を通じ、米海軍の後方支援は日本と比べて桁違いに充実していると感じた。
加海軍と交流英気を養う 3海尉服部亮祐(みねゆき)
カナダ・バンクーバーからサンディエゴに向かう航路で、われわれ実習幹部3組は護衛艦「みねゆき」移乗後2週間が経過し、練習艦「かしま」との違いにも慣れて訓練にも身が入るようになってきた。 バンクーバーでの研修・上陸では、カナダの文化や地元の人々との交流、また、カナダ海軍のホスピタリティーあふれる歓迎に感謝するとともに、これからの航海に向けて英気を養うことができた。特に私を食事に誘ってくれた「ウィニペグ」甲板士官のオイコフ中尉には感謝している。 出港後は、カナダ海軍のリー中尉が乗艦しており、1日間という短い時間ではあったが、訓練等を見学していた。またわれわれ実習幹部とリー中尉との懇談会も行われ、両国海軍の違いやカナダ海軍の歴史などを学ぶ良い機会になった。
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