2011年6月2日木曜日

特集:低炭素時代のエンジン気筒を減らすほど効率で有利、振動に不利 もう4気筒なんていらない(1)

特集:低炭素時代のエンジン
気筒を減らすほど効率で有利、振動に不利 もう4気筒なんていらない(1)
2011/6/1 7:00

 4気筒から3気筒、3気筒から2気筒――。燃費の良さを売り物にする小型車が、このところ気筒数の少ないエンジンを積むことが増えている。気筒数が少ないと、エンジンの燃費は良くなり、小型にもできる。それと引き換えに、間違いなく振動・騒音は大きくなってしまう。それを克服し、燃費の良さと低振動・低騒音を両立する技術が登場し始めた。4気筒エンジンの出番がなくなる時代が来るかもしれない。本連載では「少気筒エンジン」の最前線を追う。

 2011年11月、トヨタ自動車がダイハツ工業から3車種のOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けて軽自動車に参入する(図1)。これで日本の乗用車メーカー8社がすべて軽自動車を手がけることになる。「小さなクルマがおいしい」と考えられている証拠である。現実に、軽自動車の保有台数に占める構成比は増え続け、現在では35%を超えている(図2)。

 さらに先がある。軽より小さなクルマの市場ができる可能性が出てきた。2011年2月、国土交通省は軽自動車より小さな自動車の規格を設ける方針を決めた。2人乗りに限定し、高速道路を走らないという前提で最高速度を80km/hに抑える。衝突試験などの条件もそれを前提にするから、現在の軽自動車よりかなり軽く、安くできる。
 具体的な規格は決まっていないが、エンジンは現在の軽よりも小さくなる可能性が高い。電気自動車/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3E4E7E2E7E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NX(EV)やハイブリッド車/async/async.do/ae=P_LK_ILTERM;g=96958A90889DE2E6E3E5E3E1E0E2E3E4E2E1E0E2E3E29BE0E2E2E2E2;dv=pc;sv=NXも視野にあるから、単純にエンジン排気量ではクラスを分けない可能性もある。いずれにしても、現在の軽自動車の下に、新たなクラスができそうだ。
 世界ではどうか。自動車の需要の中心は既に新興国が占めている。新興国で高収入層を相手に商売をしている自動車メーカーも、民主化が進めば庶民の生活水準に見合った車種に力を入れるしかない。世界の自動車の需要構造は、小型車に向かっているのである。

■1気筒あたりの排気量に最適値あり

 クルマが小さくなれば、エンジンの排気量も小さくて済む。それでは気筒数はどうか。これを考えるには熱効率、寸法、振動など考えるべき要素が多い。

熱効率を考えた場合、1気筒あたりの排気量には最適値がある。排気量が小さすぎれば「2乗3乗則」によって燃焼室のS/V比(表面積/容積)が大きくなり、表面からの冷却損失が増える。逆に大きすぎれば火炎の伝播(ぱ)距離は長くなり、燃焼時間が延びるので熱効率は下がる。燃焼に時間がかかり過ぎてピストンが下がってしまうと、熱エネルギーを有効な力に変換できない。

 日産自動車は2010年7月に発売した新型「マーチ」で搭載エンジンを4気筒から3気筒にするに当たり、判断の根拠として、熱効率に関して最適値を検討した。それによれば、1気筒あたりの排気量を300mLから400mLにすると、熱効率は2.0%向上する(図3)。実は500mLにすればもっと良くなる。グラフにない右側まで想像すれば、熱効率の面だけから見た最適な排気量は500mLを挟んだ400~600mL程度になるはずだ。つまり、2気筒なら800~1200mL、3気筒で1200~1800mLとなり、需要の多くをカバーできる大きさだ。


図3 1気筒当たりの排気量と熱効率の関係  3気筒は4気筒より2.0%高い。
 それでは寸法はどうだろうか。総排気量が同じだとすると1気筒あたりの排気量が増えるので、そのまま4気筒の4分の3、4分の2というわけにはいかない。エンジンブロックの厚さを無視し、ピストンのストロークが同じとしてエンジンの長手方向の寸法を試算すると、4気筒を3気筒にすると4分の3.46、2気筒にすると4分の2.83まで小型化できる。チェーンケースなど、気筒数の多寡によって変わらない“固定費”部分が残るので、実際の小型化比率はここまではいかないが、長さでは「気筒数は少なければよい」ことは間違いない。

最後に振動問題だ。振動の種類を整理してみると、4気筒にあって3気筒にない振動もある(表1)。4気筒はピッチングの起振力がゼロになることが、3気筒に対する大きな利点だ。ただし本連載で後述するように、3気筒ならではの振動防止策もあり、「気筒数が多ければよい」というものではない。


表1 気筒数によって問題になる振動は違う  それぞれに違った対策をする必要がある。
 それでも超えられないのがトルク変動。4ストロークエンジンの場合、爆発間隔は4気筒では180度、3気筒では240度、2気筒では360度になる。トルク変動は正確にはエンジン振動ではないのだが、車軸からの反力でエンジンを回転方向に振動させる。エンジンを車体にとめているマウントを揺すって、結果的に車体を加振するという意味では同じことだ。この件に関しては「気筒数が多ければよい」という単純なことになる。
■アイドリングが自然消滅
 ところが、このトルク変動をめぐる情勢が変わってきた。トルク変動が大きな問題になるのは、エンジンが低速回転、つまりアイドリングしているときである。加振周波数が小さいためマウント方法の工夫などで遮断できない。また、クルマが止まっているためほかの振動、騒音がなく、目立ってしまう。
 今、そのアイドリング自身が“存続の危機”にある。環境問題を解決しようとして現れた燃費向上技術であるアイドリングストップ機構やハイブリッド車が普及し始め、さらにEVにエンジンを搭載して発電機を回し、充電することで走行可能な距離を延ばす「レンジエクステンダ」が使われると、エンジンはアイドリングをしなくなってしまうのである。
 3気筒、2気筒エンジンの最大の弱点であるアイドリングがなくなってくれれば、4気筒に対する競争力は急速に強まるはずだ。 (次回に続く)
(日経Automotive Technology 浜田基彦)
[日経Automotive Technology 2011年5月号の記事を基に再構成

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