2011年10月25日火曜日

水ひと模様 救難飛行艇US-2

【産経】2011.10.25
 水ひと模様 救難飛行艇US-2

撮影場所 山口県岩国市


 「着水!」 操縦士の掛け声とともに、機体は大きな水しぶきに包まれた。プロペラが回転速度を落とし、主翼の先端のフロートが波の反射光を受けて輝く。海難事故で活躍する海上自衛隊の救難飛行艇。今回はその迫真の洋上訓練に同行した。


激しく水煙を立てながら着水する救難飛行艇US-2=山口県岩国市沖


 山口県岩国市の岩国航空基地。訓練はその沖合で海上に脱出したパイロットを救出するという設定で行われた。乗り込んだのは操縦士、副操縦士のほか、捜索を行う救難航空士、ボートで救助活動を行う機上救助員ら総勢11人だ。


着水後、ボートを使って行われた遭難者の救難訓練


 基地を離陸すると、「スポット」と呼ばれる装置により目標がレーダーに表示される。海上を旋回して目標を確認すると、機体はゆっくりと大きく傾き、時速約100キロで着水した。

 機内で組み立てられた全長約7メートルのボートが下ろされ、激しい波をかぶりながら遭難者の待つ現場へ。そのスピーディーで緊迫した救出訓練はシャッターを切るタイミングも忘れるほどだ。機内に引き上げると、一気に汗が噴き出したが、飛行艇のどっしりとした安定感と静かな「離水」に頼もしさを覚えた。


岩国基地は、海上自衛隊の航空部隊の拠点のひとつだ=山口県岩国市


 最大3メートルの波の中でも着水できる飛行艇だが、操縦には格段の技量が求められる。

 「とくに着水には『波を見る目』が必要。陸と異なり平らでない水面から、少しでも穏やかな着水ポイントを探す」と操縦士の丹野史大2海尉。「着水と同時に波に跳ね上げられて、飛び石のようになることもある。遠くまで救助にいける反面、無事に離水して帰らなければならない責任感を感じる」


遭難者の救助のため機内で組み立てられるボート


 多くの航空機の場合、操縦士すなわちパイロットが機長ということが多い。しかし、この飛行艇では、飛行計画全般を統括する救難航空士の紺谷泰久1海尉が機長だ。「全員の意見を総合的に判断するいわば調整役がキャプテンの仕事。安全に飛行して確実に救助するために常に第3者的な視線を持つ」と話す。

 豪快な「着水」の裏で積み上げられた技術とチームワーク。救難飛行艇は常に実戦に向けてたゆまぬ「備え」に支えられていた。

(水ひと模様取材班)

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