【産経】2011.9.17 22:09
今月に入りロシア軍が日本周辺で挑発を繰り返し、カムチャツカ半島では21日までの予定で大規模演習を続けている。異例の事態に緊張を強める海上自衛隊は17日も電子偵察機EP3、画像データ収集機OP3を飛ばし情報収集に当たった。
防衛省は一連の行動について「強いロシア」を誇示する狙いがあると分析。海軍力を増強し北方進出ももくろむ中国を牽(けん)制(せい)しつつ、日本に中露との「二正面作戦」を強い、北方領土問題で譲歩を引き出す「外交カード」として利用する思惑も指摘されている。日露双方の動きを検証した。
■初物づくしの演習
「日本領空に接している」
6日夜、航空自衛隊幹部はロシアからの航空情報に驚いた。同日午後8時36分、成田空港(千葉県)にある「航空情報センター」に届いた通知は、8日午前10時から午後3時まで北海道沖を訓練空域として設定するとしていた。
8日は空軍爆撃機が日本周辺を1周半近く飛行した。東日本大震災の被災地である仙台沖を旋回した後、設定した空域で空中給油をし、さらには竹島沖をぐるりと回った。
翌9日には海軍艦艇24隻が太平洋への出口に当たる宗谷海峡を通過した。
海自幹部は「海峡を通過するときから対潜水艦戦訓練を始めていた」と明かす。
艦隊はカムチャツカ半島東部に向かい、兵員1万人、艦艇50隻、航空機・ヘリ50機を投入した演習を行った。
ロシア軍の動きに対し、自衛隊は警戒監視を行うとともに、緊急発進(スクランブル)も行った。さらに爆撃機への空中給油の瞬間も撮影した。
■中国牽制の狙いも
空自幹部は「日本の庭先に訓練空域を設け、空中給油というメーン・イベントを仕掛けた」と話す。航空戦力をより遠方に展開できるようになったことを誇示するデモンストレーションだったとの見方だ。
空自OBは「中国を牽制する狙いもあった」と指摘する。中国は太平洋への出口として宗谷海峡の通過も視野に入れているとされる。北極圏開発への積極的な関与も目指している。北極圏に利害を持つロシアは中国の動向に神経をとがらせている。
資源輸出をてこにした国力回復に伴い、予算が潤沢になったロシア軍は、2007年から戦略爆撃機の長距離飛行を再開させ、原子力潜水艦の展開も活発化させた。10年6~7月には択捉島にも1500人の兵員を動員した大規模演習を極東地域で行った。今回の演習は海・空戦力を投入した極東での大規模演習の「常態化」をうかがわせる。
来年3月の大統領選で、再選に意欲を示すドミトリー・メドベージェフ大統領(46)が強い指導者像を国民にアピールするため、再び示威行動を指示する可能性があるという。
■対処と抗議不可欠
「ロシアは伝統的に『力の信奉者』で、弱体化した国に矛先を向ける」
防衛省幹部が語るように、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題で日米同盟はきしみ民主党政権は不安定な状況が続く。「南」で中国が航空機や艦艇による威嚇を繰り返す中、「北」でロシアの挑発も続けば、自衛隊は「二正面作戦」を強いられる。
「ロシアは日本の苦境をつくりだした上で、挑発を緩めるかわりに北方領土の返還要求などを控えさせる外交カードに使うのでは」
空自幹部もそう予測する。ロシアの挑発に日本政府は明確な抗議はしていない。防衛省OBは「安全保障上、最大の失策」と断じる。反応がなければロシアが挑発をエスカレートさせかねない。このOBは「揺るぎない対処と断固たる抗議が不可欠だ」と強調する。(半沢尚久)
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