2011年8月30日火曜日

反政府部隊 「ムジャヒディン」の影じわり

【産経】2011.8.29 20:23

 国民評議会が新体制発足に向けて準備を進めている。焦点の一つが「新生リビア」の治安部門を担う国軍創設だ。

 その主力となるトリポリの反カダフィ派部隊では、戦闘にたけたイスラム勢力の台頭が顕在化しつつある。(トリポリ 大内清)

 トリポリ市街の警備にあたる若い兵士が、思い詰めた目で言った。「国民評議会は、世俗主義的すぎるんじゃないかな」

 ハーリド・サイフッラー(20)。「祖国」リビアの土を初めて踏んだのはわずか3カ月前、西部ナフーサ山地でカダフィ大佐の軍と戦う「トリポリ旅団」に入隊するためだった。

 父親は1980年代、アフガニスタンでの対ソ連戦に従事した「ムジャヒディン(イスラム戦士)」だった。当時、過激なイスラム主義の流入を嫌ったカダフィ政権が帰国を許さなかったことから渡英、サイフッラー氏はそこで生まれ育った。父親も現在、同じ旅団で、かつてのアフガンでと同様、カラシニコフ銃を握っているという。

 「新しいリビアは、よりイスラム的であるべきだよ」。表情も変えずこう話すサイフッラー氏やその仲間が「シャイフ(長)」と尊称で呼び、新政権で主導的な役割を果たすと信じて疑わない人物が、同旅団の司令官アブドルハキーム・ベルハジ氏だ。

 66年生まれのベルハジ氏はアフガンでの対ソ連戦を経て、90年代にリビアのイスラム国家化を目指す武装勢力「リビア・イスラム戦闘集団(LIFG)」を指導した。LIFGは、国際テロ組織アルカーイダとの関係も指摘される組織だ。

 2004年に逮捕され、09年には獄中で武装闘争路線放棄を宣言、翌年、恩赦を受けメンバー数十人とともに釈放された。LIFGに「転向」を促し、政治改革の一環としてメンバーの大量釈放を主導したのが、カダフィ氏の次男で最有力後継候補といわれたサイフルイスラム氏だった。

 しかし今年3月以降、反カダフィ派と政権軍との内戦が激化すると、ベルハジ氏は銃を取り、反カダフィ派部隊とともに西部地域を転戦。8月にはトリポリ旅団を率いて最初に首都へ攻め込み、カダフィ氏の居住区があったバーブ・アジジヤ攻略戦でも「一番槍(やり)」をつけた。

 26日にはいち早くトリポリで会見を開き、各部隊の指揮系統の一元化を発表。7月の軍司令官オベイディ氏の暗殺以来、分裂も指摘されてきた反カダフィ派部隊の、最高指揮官に等しい存在にのし上がった。

 汎アラブ紙アッシャルクルアウサトなどによると、反カダフィ派には、戦闘経験豊富な元ムジャヒディンやLIFGメンバーが少なくとも800人参加しているとされる。その中心にいるのがベルハジ氏だ。
    
 判事出身のアブドルジャリル議長や経済専門家のジブリル暫定首相ら文民中心の国民評議会は、新政権について、「人民主権」「市民社会の確立」といった理念を表明している。
 これに対しベルハジ氏は、目指す政権像を明確にしてはいない。ただ、サイフッラー氏は「ベルハジ氏を含め、仲間の多くは親欧米的な国民評議会に失望している」と説明、イスラム色の濃い政権となるのは「当然」だと強調する。

 リビアに軍事介入した欧米諸国は、イスラム勢力の台頭を警戒し、穏健な国民評議会への支援を強化してきた。だが、バーブ・アジジヤ攻略で勢いに乗るトリポリ旅団には最近、入隊希望者が急増、その人数は2千人規模に達するという。
 「軍事的なバックグラウンドがなく指導力の弱いアブドルジャリル氏では、軍を統制できない」。国民評議会の下部組織、ザーウィヤ地方評議会の評議員サッディーク・アッラーブ氏(50)は産経新聞の取材にこう述べ、今後、創設される軍と、国民評議会の関係がぎくしゃくする可能性を示唆している。

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