【SAPIO】2011年11月16日号
中国海軍と海上自衛隊の艦艇が戦闘すれば 古森義久
軍事力増強を加速する中国が日本に戦闘を仕掛けてくる。そんな説がある勝つのはどちらなのか。中国側の日本に対する警戒を裏づけるような要素としては自衛隊の特定分野での能力の高さが指摘される。
ヘリテージ財団の首席中国研究員ディーン・チェンが語る。
「海上自衛隊は英海軍より艦艇数が多い。日本がアメリカを同盟国として抱えていることを合わせれば、軍事的にきわめて危険な存在となりえる。
中国側の一部には、日本が独自に軍事強国になることを防ぐには日米安保条約が有効だとする意見がある。いわゆる『ビンのフタ論』。
また一方では、『日米同盟は中国を抑えこむためのアメリカの覇権的な試みだ』という意見もある。このへんは中国にとって日米同盟をどうみるべきかのジレンマです」
「ビンのフタ論」というのは、日本の本格的な再軍備をビンの中に封じ込めるために、日米安保はそのフタになるという意味の議論である。かつて沖縄駐留の米軍海兵隊司令官がそんな発言をして更迭された。
だが米側の一部には確実に存在してきた思考である。
それと同じ考え方が中国にも存在する。
中国側では少なくなったとはいえ、長い年月、「日本の軍国主義復活」を声高に非難する声は絶えなかった。
カーネギー国際平和財団副会長のダグラス・パール氏は、海上自衛隊の戦力について、高い評価を述べている。
「中国は尖閣での衝突事件の際も海軍艦艇を急派はしなかった。万一、米海軍とはもちろんのこと、海上自衛隊と戦えば正面からではまったくかなわないことを知っているからです。もし中国と日本の艦艇同士が戦闘をすれば、中国側はみな撃沈されるでしょう。日清戦争の際の海戦と同じ結果です。ただしこの種の日本側優位の展開は戦闘の冒頭だけではありますが」
パール氏はそこで一息ついて、もし日中が戦争を始めれば、日本にとって悪いこと、不利なことが多々起きる、とつけ加えた。
具体的には、中国側のミサイルを念頭においての発言だろう。
中国は日本全土を射程におさめた弾道ミサイルや巡航ミサイルを数百単位の基数、配備している。中国は核兵器をも保有する軍事大国。同盟パートナーである米軍という強力な盾があってこそ日本側の対中抑止力は効果を発揮するが、日本独自では話にはならない。
この点については、国防省の元中国担当上級部長のダニエル・ブルーメンソール氏が解説を加えた。
「中国指導部はある面では日本がすでに衰えつつあるパワーだと判断し、軍事力を含めての日本の国力への懸念を減らしているという現実がある。この認識ではアメリカこそが日本をプッシュして、日本が自国の国家利益をもっと積極果敢に追求するよう圧力をかけているということになる。
結果として中国は日米同盟が全体として強化されることを嫌う。
しかしその一方で日本独自への懸念も消し去れない。だから日米同盟に対しては反発と受け入れと、相反する対応の交錯した曖昧な要素も中国側にはあるということです」
米側専門家たちのコメントをまとめれば、中国はやはり日本自体には複層の敵対心や反発感情を抱き、その種の心情を軍事態勢にも反映させている、ということだろう。その背後には領有権紛争など実利的な日本への対抗の理由がある。
中国は同時に日米同盟にも強い警戒心を向けている。
だがその日米同盟には、日本の自主的な軍事力増強という事態を抑える効用があるのではないか、という期待も一部では消していない。
米側の中国の対日戦略観としてはこんな総括ができそうである。
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